七十二候 第53番 · 9月28日 – 10月2日

蟄虫坏戸

Mushi kakurete to wo fusagu · Insects seal their dens

庭の虫の音がまばらになり、小さな生き物たちが土の中へと姿を消していく頃。

つい先日まで賑やかだった虫の声が、夜ごとに遠のいていく。朝露に濡れた蜘蛛の巣は主を失い、ただ光を宿すばかり。土の匂いがどこか深くなったように感じるのは、大地がその懐に小さな命を招き入れているからだろうか。

自然便り

蟋蟀や蝗は石の下、朽ち木の隙間へと身を潜め、蟻は巣口を土で塞ぐ。空は一段と高く澄み、いわゆる「天高く」の秋空が広がる。秋桜が風に揺れ、柿の葉は色づき始め、その実も少しずつ朱に染まってゆく。

旬

果物

梨

柿

マスカット

酢橘

野菜

松茸

しめじ

銀杏

蓮根

魚

秋刀魚

鮭

鯖

食卓

01

きのこ汁

舞茸、しめじ、えのきなど秋の茸をたっぷり入れた澄まし汁。湯気とともに立ち上る土の香りが、肌寒い夕暮れに沁みる。

02

柿の白和え

熟した柿を胡麻豆腐の衣で和えた一品。果実の甘みと胡麻のほのかな苦みが、深まる秋の味わいを映す。

03

鯖の味噌煮

脂の乗った秋鯖を甘めの味噌でじっくり煮含めた、この時季ならではの滋味深い家庭料理。

04

銀杏入り茶碗蒸し

翡翠色の銀杏を忍ばせた茶碗蒸し。滑らかな玉子地の中で、銀杏のほろ苦さが秋の奥行きを伝える。

文化便り

この候は秋彼岸の終わり頃にあたり、先祖の墓参りを済ませた人々が日常へと戻る時期。「虫が戸を塞ぐ」という表現には、生きとし生けるものが冬ごもりの支度を始める自然の摂理と、仏教的な輪廻の思想が重なる。澄んだ空気の中、寺の鐘の音がいつもより遠くまで届くように感じられる。

虫の戸を閉ざす音なき夕べかな

mushi no to wo / tozasu oto naki / yūbe kana

insects seal their doors — / this evening without sound / deepens into dusk

静まりゆく庭の下で、無数の小さな扉が音もなく閉じられてゆく。