七十二候 第56番 · 10月13日 – 10月17日

菊花開

Kiku no hana hiraku · Chrysanthemums bloom

菊がその重なり合う花弁を開き、凛とした青い香りが庭々に漂い始める頃。

朝の空気に透明な冷たさが宿り、遠くの山稜がいつもより近く感じられる。庭先や寺社の境内では菊が咲き揃い、白、黄、錆朱、淡い藤色と、それぞれが秋の小さな造形を見せている。花の傍を通ると、草と土の間のような清々しい香りが立ちのぼる。

自然便り

雁の群れは南への旅路を続け、暮れ方の空にその声を響かせる。朝露に濡れた蜘蛛の巣が低い陽光を受けて光り、昼前には跡形もなく乾いてしまう。柿の葉は緑から橙へとゆるやかに色を移し、その下の実も日ごとに熟れを深めている。

旬

果物

柿

梨(二十世紀・豊水)

酢橘

林檎

野菜

春菊

牛蒡

里芋

蕪

魚

秋刀魚

鰆

金目鯛

食卓

01

菊のお浸し

湯がいた食用菊の花弁を出汁醤油で和えた一品、季節の名を冠する花を直に味わう。

02

菊花蕪

蕪を菊の花に見立てて飾り切りし甘酢に漬けたもの、秋の収穫と菊の意匠を重ねる。

03

牛蒡と茸のきんぴら

牛蒡と秋茸を醤油と味醂で炒り煮にした一皿、冷えゆく夕べに似合う滋味。

04

金目鯛の煮付け

脂の乗った金目鯛を甘辛く煮含めた料理、秋深まる頃の食欲に応える。

文化便り

旧暦九月九日はかつてこの時期にあたり、重陽の節句として菊の花を酒に浮かべ長寿を祈った。現代でも各地の神社で菊花展が催され、菊は皇室の紋章としてパスポートや公印に刻まれ、不変と気品の象徴であり続けている。

朝露に菊の重さの加はりぬ

asatsuyu ni / kiku no omosa no / kuwawarinu

In morning dew, / the chrysanthemum grows heavier— / autumn deepening

白菊の花弁がひとひら、石畳の上にそっと落ちて、誰を待つでもなく静かに留まっている。